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インタビュー『THE MOMENT』

ICE 角松敏生さんインタビュー『THE MOMENT』[new]
3月にリリースされたニューアルバム『THE MOMENT』。リリース前から話題だった20分を超える組曲を収録した問題作についてうかがってきました。



自分が楽しめることをやったら

角松敏生さんインタビュー『THE MOMENT』


■20分と15分を超える大作、2曲を収録したアルバム『THE MOMENT』を聴かせていただきました。とても満足な音楽体験をさせていただきニヤニヤしながら「ついにやったな」と思いましたが、角松さんご自身このアルバムについてどんなふうにお考えなのかお聞かせいただけますか。

角松敏生さん:自分が楽しめることをやるのがいいだろうと、CDが売れない時代なんだから......。逆に「売れる」ということを考えたら、ずっと聴いてくださっているファンの方は買ってくださるでしょうし、内容によって2千から3千枚の上下はあるんですけどね。

だいたいCDショップさんが「角松敏生さんならこれくらい売れればいい」という数しか仕入れてくださらないので、その後に「これ売れそうだから」といって追加注文とかしてくれないんですよ。在庫抱えたくないですから。 僕のファンの方が「売り切れてました!」って知らせてくれるんだけど、「売り切れてるってのは必ずしも喜ぶべきことじゃないのよ」と(笑)。ショップが追加で仕入れてくれていないか、1枚しか仕入れていないか。CDショップの現状ってそうですから。それから先買いたい人は「どうぞamazonで買ってください」となるわけですよ。一部のシンパのショップさんは必ず追加して置いてくださいますけどね。でも今はそんな時代ですから、まあ、ある程度の枚数が見えるんだったら自分の好きな「うわっ!」っていうことをやってもいい時期じゃないかなと思ったわけです。

僕(自身)も「どうかなぁ......」って思ったわけですけど、やっぱりそういう意図でやる人が僕らの世代、上の世代を含めていないんですよね。若いヤツと組んでとかそういう目新しい企画をやっている人はいらっしゃるかもしれないですけど、もう孤高で目新しことをやる方はいないので目立つかなとは思いました(笑)。

案の定、プレスやラジオ局の食いつきはよかったですよ。おもしろがられましたね、そういうのほかにないから。いわゆるベストアルバムを出したり、人のカバー集を出したりする時代に「売れなくてもいいや」という発想で作ったってのもありますね。だって「これは自信作だ」って曲ができたとしても、構造的にタイアップを取ってくる政治力っていうのがうちにはないですから。もうずっとそういうことの連続だからそれ以上は売れないんですよ。だからどんないい曲が書けたと思っても世のなかに広めていってくれないんですよ、メディアが。レコード会社もタイアップ取るのに動いてくれてはいますけど、いっぱい曲が溢れてるわけだからそう簡単に決まるものでもないですし、どんなにいい曲を書いてもある程度のものしか売れない。いっぱいあるじゃないですか「これが売れてるのにこっちは売れてないんだ......」みたいな曲。若い人たちが作った曲のなかにもたくさんありますよね。「これ今すごく売れてるから聴いてみて」と言われ聴いても「うーん......。ピンとこない」みたいなことがあったりね(笑)。そういうことを考えて、じゃあ僕の立場なら何やってもいいのかなと。

角松敏生さんインタビュー『THE MOMENT』


シングルヒットがなかったから自由にやってこられた

僕はシングルヒットを持った有名な歌手ではないので何やってもいいんですよ。だから音楽ファンは"角松敏生"を知っていますが、たとえば日本人が誰でも知っているような『You're My Only Shinin' Star』や『 ILE AIYE(イレアイエ)~WAになっておどろう』などがどれも"角松敏生"というイメージになって大衆のなかでは結びつかないんですよ。音楽を知っている人、もちろん角松ファンはみな知っているんですけど、いかんせんシングルヒットがない。
80年代に僕は「シングルヒットをさせるのはみっともないことだ」という戦略でやっていましたから、アルバムを売るんだと。それが良きにつけ悪しきにつけ影響してるんですけどね。良きの部分で考えたならばどういうことかって言ったら、たとえばシングルヒットの1曲でもあって、テレビにも出てワッという瞬間があったとしたら、今頃年末の「あの人は今」的な番組に出ていますよね。でも僕はいっさいそういう番組から声がかからないんですよ。だってそういう現実がないんですもの。ということは取りも直さず有名ではないってことなんですよ。コマーシャルな部分では知る人ぞ知るというスタンスでずっとやってきているので、だからある意味自由なんです。

2012年に『REBIRTH 1』というファンのみなさんが喜んでくださるセルフカバーアルバムを出しましたよね。あれはあの時期だったからで、それ以外は毎回自分のやりたいことをやれているんですよ。僕はムーブ(move)している、停まっていないんですよ。リアルタイムなんです。だから昔聴いてて今聴かなくなっちゃったって人は「え? 角松敏生? 懐かしいね」って言うかもしれないんだけど、「あのー、すいません。僕ずっと音楽やっているんだけど、君たちが音楽から離れただけなんじゃないですか」と(笑)。そういう僕の立場だからこのアルバムができた、っていうのもあります。シングルヒットを持ってるとか、何かそういう責任があったらこういう作品は出せないですよね。僕はわりと自由に音楽をやってこられたからというのがあったんですよ。

ことの発端はレコード会社のスタッフと次作をどんなものにするか話し合ったことからですかね。、これはライナーにも書いたんですが、僕はAメロ、Bメロ、サビみたいな展開の曲を、毎回コンセプトとストーリーを考えて10曲作ってアルバムにするわけですけど、今は15曲くらい入れたアルバムをババーンっと出して、好きな曲選んでくれみたいな時代じゃないですか。アルバムというよりは情報ファイルですよね。このアーティストはこういうことやっていますという情報をコンパイルされているものをCDと呼ぶ、みたいなイメージなんですね。僕はそういう作り方はしたくない。なんかこう座りが悪いんですよね。1曲ごとに意味合いを持たせて作品としていく。そういうことを知っていて、そこに共感できるのは僕と僕のファンだけ、という感じですから、今は。だから何やったっていいんだ、ということが前提としてあるからできたんです。だってこういうことやろうと思ったら、僕の上の世代の人たちみんなできるんですから。ただやろうという気にもならないだろうし......。

話を戻しますが、僕はそういうルーティーンで作っているのも飽きてきたので「どういうの作ってほしいですか?」とレコード会社に聞いたんですよ。そしたら明快で「REBIRTH 2を作ってくれませんか」というわけです。当然のことながら企画は宣伝しやすいし、営業は数字作ってきやすいし、前回の数字がよかったからと。それはレコード会社の考え方として非常にまっとうなんですけど。ただ僕的にそういうものは「ここぞ」ってときに出すものであって乱発するものではないと。だから前のが「1」だから次に「2」がくるんだろうなと期待させて、次にすぐ出しちゃいけないというのが僕の考え方で、そうじゃないと「2」「3」とどんどんしぼんでいくからと。楽しみや刺激っていうのは連続していくと刺激にも楽しみにもなっていかないから、僕は「抵抗ありますね」と答えたんです。「じゃ、この時期に角松さんがやりたいことやっちゃったらどうですか」と。ちなみに何やりたいですか? と聞かれたなかに「プログレ」ってのがあって(笑)、プログレっておもしろいんじゃないですかと、冗談交じりだったんですけどね(笑)。

でも、今着手して自分がすごく盛り上がれそうなものって何かなって考えたらプログレというよりも、今の形式、楽曲の作り方の形式を逸脱して自由にほとばしるまま作るってことを考えたときに、組曲的なものをイメージしたんですよね。アルバムは物語だっていうんだったら、楽曲もより物語にしたほうがいいっていう発想がひとつあります。 それと、昨今ファンのあいだからインストアルバムの希望を聞くんですよね。インストも出してみたいけど、企画もの的な感じでメジャーのレーベルから出すものでもないしと。ただインストの曲はかなり書き溜めてはいるんです。で、組曲風な長尺にすることで歌もあり、器楽パートもしっかり長く聴かせられるという利点があると。これでインストを聴きたいというファンもちょっと喜ばせてあげられるという一石二鳥的な発想もありましたよね。逆にCDのこの曲は好き、これは嫌いってことができないように、始まったらそこから動けないってものをこっちが作ってしまったらいいんだと(笑)。変な話、ID(インデックス)も入れないで。ま、そういうところがとっかかりだったんですよ。

角松敏生さんインタビュー『THE MOMENT』


長いけど聴けばわかる。聴きやすいんです。

■なるほど。プログレというのはほかにも選択肢がいくつかあって、そのひとつだったんですか?

ほかにはもう一つなんだけどね。それは『Lyric』というタイトルにして「詩」に特化した「詩」を際立たせるための作品作りなんですよ。角松敏生というとサウンド。いったいどういうサウンドをどういう参加ミュージシャンで聴かせてくれるんだというふうに、ありがたいことに未だにファンの方からはそういうスキルを求められるわけですよ。なのでそういうことに気を遣いながらやるんですが、そういうところから自由になりたいと。打ち込みでも弾き語りでもいいので自由にやりたいと。サウンドにこだわらないでとにかくメロディーと詩に力点をおいた作品を作るか、プログレかどっちかだったんですよ。

■極端ですね(笑)。

(笑)うん。ただやっぱりプログレのほうがワクワク感がありましたね。自由に作れる楽しみっていうか。この曲作るの実は全然大変じゃなくて毎日楽しかったんですよ。
通常いろいろな作り方があるんですけど、各所ごとに作って、それを後で編集するというやり方とアタマから順々に作っていくというね。僕は後者でやったんですけど、自分のなかにだいたいの設計図を思い浮かべてそれに従って着手しようと。でも作っているうちに「もっとこうしたい、ああしたい」「ここでテンポ落として、ここではマイナーになって」とか。小説を書いているような感じですよ。小説なんてのは突然思い立って「やっぱり主人公ここで殺しちゃおう」とかできるわけじゃない? そういう感じですよ、今回の曲づくりは。
で、今日はここまであたためておいて、あとはまた明日と。翌日また新たな気持ちで聴いて、「よし今日はこうしよう。まだ8分か......」、「あ、まだ10分だね」、気がついたら「うわ、18分だよ、ヤバい。終わらせなきゃ」(笑)って具合にね。テーマに戻るってことだけは絶対的に決まっていたんだけど、どんどんどんどん盛り上がっていっちゃったのね。「あれ。いつテーマに戻るの?」「あ、戻れない戻れない」と(笑)。そういう作業は楽しかったですね。だって誰にも縛られないし、こういうの作ってくれっていうニーズに応える必要もないし、こんな曲ならいくらでも作れるなと思いましたもの。
Aメロだけ作って終わり。サビはあるけど2番なしとかね。ここのメロディーはテンポ落として流用、とか。そういうことが自由自在にできるってのは楽しいですよ、やっぱり。だって自分の物語ですからね。人の物語に合わせて作っているわけじゃないし、映画音楽みたいにね。僕のなかの物語は自由に書いているわけだもの、そりゃもう楽しいですよね。

■私はそこかしこに角松さんの今までやってこられたさまざまな音楽のエッセンスがちりばめられていて、そういうぶれのなさで安心して楽しめました。

最初にこれをライブでやったときにはファンの間に相当な不安が広がったらしいですよ。「角松どこ行っちゃうんだろう?」と。これはでも作戦なんですけどね。おっしゃったように聴いてみればわかるんですよ。全然聴きやすいんです。長いってみんな構えるかもしれませんけど、聴きやすいんですよ。

これは作っている最中からこの企画はよっぽど心してかからないとダメだなと思って、去年の3月くらいに実は曲を書き始めていて、5月には46億年(The Moment of 4.6 Billion Years〜46億年の刹那〜)のほうを完成させたかったんですよ。事実、リズムトラック、参加ミュージシャンの部分は5月中に全部録り終わっていたんですよ。歌といくつかのコーラスパートだけ残してほぼ80%は完成していたんです。だからミュージシャンもスタジオでこの曲をしっかり経験しているわけです。で、6月にビルボードライブで初披露したんです。

今回はあらかじめ長い曲をやるよってあちこちで言っておいたんです。製作中の長い曲をやるよと。MCで「この曲は20分あります。どう感じていただけるかはわかりませんが」と前置きして始めたんですが、プログレ好きな男性はウワーッと盛り上がっているんだけど、AOR好きな女性ファンは目が点になって小首かしげながら。ダーッと20分演奏したんです。だから(聴き手は)覚えてない、正直なところ。そういう状況ですよね。これは僕のなかでは想定内なんです。

まず聴かせる、すると不安になりますよね、どうなっちゃたの? 角松何考えてんの? というふうに。そこでそういう反応が出るということでもお分かりのとおり、今の人たちってのは想像力が相当鈍っているんですね。考える力とかイマジネーションする受容体がね。スマホでいつでもネット検索やSNSに接続できるようになって、自分のなかで前向きにイマジネーション、クリエーションするってことが鈍っているんですよね。だからいきなりCDで作品として聴かせないほうがいいと思ったのね。

まずライブでやることによって「え、いったいどうなってんだ? CD聴かなきゃ」っていうふうにね。本来はレコーディングアートだからレコード聴いて「これ生でどうやるんだ?」と。で、生を聴きにいって「うわっ、ホントに生でやってるよ」と。そういう順番だったじゃないですか。今はそういうふうにレコーディングアートとしてCDに向かい合ってくれないので、「ライブライブ」って言ってて。で、そのライブでいきなり楽しめないやつをやっちゃったのね。するとやっぱり賛否両論出るわけですよ。でも実を言うと、こんなに聴きやすかったんだよというのをCDで謎解きするように仕向けているんですね。そしたら聴きたくなるじゃないですか。なんのことはないこれは僕がずうっとやってきたことのスキルを並べただけだよ、という作品なんですよね、言っちゃったら。だからあるファンはこう言いましたよ。「これは難しいとかそういうんじゃなく、お得です」って(笑)。「20数分のなかでいろんな角松さんが入っていてお得です」と言っていましたけどね。

■うまいですね。僕もこりゃお得だと思いましたもの。

(一同笑)

角松敏生さんインタビュー『THE MOMENT』


死も、生も厳粛なもの

■46億年のライナーのなかで書かれていた時間という概念の考え方、あらためて考えちゃいましたね。

ああ、十月十日(とつきとおか)の話ね。僕もそれを聞いたときにおもしろいなぁと思って。時間の尺度の考え方っていうことで考えると、46億年の歴史も宇宙誕生の歴史からみると一瞬の出来事であると、だからその46億年規模で見たときは我々の人生もほんの一瞬だというね。それがまたミクロになっていくと時間尺は変わっていくし。すべては一瞬の羅列であることには間違いないんでね。だからタイトルの『THE MOMENT』はすべてが一瞬の羅列であるということを考えるならば、歌詞的にいうと、今を大切にしましょうメッセージであると、いちばん平易にいうとね。そういう言い方になるわけです。そうすることによって未来への不安とか、過去の後悔とか、そういうものを払拭できるといいね、というメッセージになればいいんじゃないかなと思いますね。瞬間を細やかに俯瞰するという所作から見えてくるもの。僕も歳をとってきたので、いつまで生きられるんだろうと考えたら余計そういうふうに思いますよね。

■そうですね。曲に戻りますが、『THE LIFE〜いのち〜』は小林(信吾)さんと友成(好宏)さんがピアノ演奏をされていますね。

二人は「MAOCHICA」というデュオをやっていて、毎年軽井沢大賀ホールで彼らと森(俊之)くんのハモンドオルガンと歌だけで「Tripod」ってのをやっているんですがすごく評判がよいので、今年新たに何かやりたいなということもあって彼らをフィーチュアしたかったんですよ。
もともとこの曲は「MAOCHICA」といっしょにやりたいと考えて作った曲で、完成はもうずいぶん前ですよね。タイトルから考えて子どものことかなと思われる方も多いと思うんですが、実は2番目の「往きて往きて 彼の岸へと」という歌詞は、般若心経の「掲諦掲諦 波羅掲諦(ぎゃーてーぎゃーてー はらぎゃーてー)」っていうところまんまなんですよ(笑)。「掲諦」っていうのは英訳すると「Go to」と同じ意味なんですね。だから死者に向けての歌詞になっているんですね、2番は。
1番は生まれてくる命に対してという構成になっているんです。あれは、青木さんと浅野さんが立て続けに亡くなって、その後結婚して子どもが生まれるという時系列にそういう流れがあったんです。そのときにもちろん青木さんと浅野さんの死に対しての自分のなかの思いみたいなものをずっと抱えながら子どもが生まれました。
僕は人の死はたくさん見てきたけど、生まれたところだけは見たことがなかったんですね。100%授かれるものではないですが、もしそういう機会があったら自分も経験してみたいというのはあったから。ありがたいことに無事授かることができたので。けれど、それ自体がふつうのことではないですから、誰でもすぐにできることではないので。

それで産院の待合室に男が入っていくってのはなんかちょっと腰が引けるじゃないですか。でも、こんなに胸を張って入れることもないじゃない(笑)。パパです、って言って入っていくわけですから。きっと産院っていうのはおめでたのハッピーオーラで満ち満ちているんだろうなと。ピンク色でみんな優しい感じで作ってあるんだけど、そういう気持ちで入っていったらそれがめちゃくちゃ重かったわけ。笑ってる人ひとりもいないぞと。宙をぼーっと見てる人とか夫婦で来ていてもたまに笑顔を交わす程度で。言ってみたらすごく厳粛なんですね。重たい。それはいろんな境遇の方々がそこにいるわけですね。ふつうに「はい、おめでたです」という人ばかりじゃない。それぞれ事情を抱えていたりするわけですよね。

僕は圧倒的になめてました、と思ったんですよね。葬式も厳粛ですが、誕生させることもまたものすごい厳粛で「重たいな」と思ったわけですよ。同時に産院の待ち合いをながめていて、何かに似てるなと。駅とか空港だ。いろんな人がいろんな思いを抱えながら笑ったり難しい顔をしたり、ときには泣いている人もいてそういう人たちが出たり入ったりしてるのを見て、産院の待合室は駅か空港だと。人々の出しているオーラというか、雰囲気がね。それらがこの曲を書くきっかけになったんですけど、これは単純に「生と死」の曲なんですね。出来上がっていい曲が書けたなと思ったんですけど、その当時は自分には重すぎて、もっとこれを軽やかに優しい歌声で表現したいなと思ったからチアキに歌ってもらってホッとしたみたいな(笑)。チアキが歌うと優しい歌になるなぁと。それから4年経って、今自分がアルバムを出すにあたって、46億年があって、「Get Back to the Love」があって今だったら歌える、これがあると多分締まるなと思ったんです。で、最後にチアキに幸せにしてほしいな(笑)ということで最後の曲があるんです。

角松敏生さんインタビュー『THE MOMENT』


アラン・メンケンとディズニーに敬意を

最後の「I SEE THE LIGHT 〜輝く未来〜」は、ディズニーアニメ『塔の上のラプンツェル』の挿入歌です。ま、僕は子どもがいないときもディズニーアニメは好きで見てたんですね。エンターテインメントとして勉強するところはたくさんあるなと思っているので。ただこれは子どもと見ていて挿入歌が流れたときに「おや? これはまさか......」と思ってたらやはりアラン・メンケンだったんですね。僕大好きなんですよ。
ディズニーアニメを低迷から救ったのは彼だし、ちょうどAORの時代に『アラジン』、『美女と野獣』とかひとつの時代を築いたし、ディズニーアニメは大人のデートムービーにもなったしね。気づかせてくれたご縁は子どもなんですけどね(笑)。
ただ子どもと見ていたので吹替え版なんですね。オリジナル版より劣るというイメージがあったんですが、無理して歌詞をつけているところもあるしいつもはシラケるんですが。声優はしょこたん(中川翔子)がやったことで話題になったんですけど、歌のパートはたぶんミュージカル系の方だと思うんですが、ミュージカル系の方は本当に歌うまいんだわ。それも素直。下手なこまっしゃくれた変なR&Bみたいな歌い方をしない。素直でまっすぐな歌でオリジナルのほうはキャロル・キングっぽいアコースティックな女性ボーカルだったんですよ、70年代フォークロック的な。吹替えバージョンは歌い上げる系で僕はそっちのほうがいいと思っちゃったんですよ。『アナと雪の女王』はおいといてね(笑)。

詩がすごくよかったんですね。訳詞の精度もよかったし、オリジナルより僕はこっちが好き、という理由で歌ってみたいなぁと思ったんですよ。僕がアラン・メンケンやるなら、トラックメイクをロビー・ブキャナンがやってたころのデヴィッド・フォスターフレイバーのスタイルに戻して(笑)、DXローズから始まってオーケストラが入ってきてという体で作りたかったわけ。実はこれがいちばんお金がかかったんですよ。37人のフルオーケストラを使ったから。これはディズニーに対する僕の敬意です。ディズニーの曲をカバーするのだからもうこれくらいのことはしないといかんのです、という僕の敬意(笑)。だから嫁に「カバーにいちばんお金かけてどうすんの」って怒られたんですよ。

(一同笑)

そういうのを作り、アメリカンアイドルみたいなすごいの見つかったらおもしろいなということで相方をオーディションで選ぶやり方にしたんです。webを使ってね。まあ3、4か月の応募期間でまあまあ集まって音源審査から4人ほど選んで最終審査で実際に聴いてみるというやり方をしたんです。そのときに「これを歌うんです」と伝えて練習してきてもらうんですよ。だけどお手本は必要で、たまたまチアキが自分のユニットで東京に来ていたから「これ仮歌うたってくれない?」「喜んで!」と、チアキもこの曲すごく気に入ってくれてかなりガチで歌ってそれをお手本にさせたんですね。それで審査のときみんなそれぞれいいんだけど、チアキの仮歌がすご過ぎて......。

(一同笑)

最終的に2人残ったんだけどCDに入れるとかいうんじゃなくなってきちゃって、誰に聴かせても「チアキさん凄いね」って言うわけですよ、そのハマりっぷりが。チアキさんに仮歌歌わせちゃダメですよ、って言われて。本人は小さくガッツポーズしていたみたいだけど(笑)。「チアキさんで行くことになりました」と。仮歌だけどガチで歌っているからあいつやりやがってと。

(笑)

その2人もちゃんと練習すればよくなると思ったんですよ。素質もあるし耳もいいし、環境次第ではいい歌い手さんになるんじゃないのと、でキャリアに入れてあげたかったので準グランプリということで配信だけど世に出すことにしました。CDと別バージョンは配信だけで聴けます。ま、ちょっと笑えるエピソードでしょ(笑)。ファンのあいだでも侃侃諤諤でしたが、チアキに決まりましたと報告したら大笑いでした。しかもこれ仮歌のまんまですから。

■ああ、そうですか!! 先日、セリーヌ・ディオンが映画「タイタニック」の主題歌を歌った当時の関係者のインタビューを見たんですが、完璧主義者のセリーヌは歌入れの直しを希望していたそうなんですが、仮歌を聞いた監督スタッフ全員がこれがいい、と仮歌がままCDになったと話していたんですよ。

(笑)あるんですよ、そういうことがね。そのときの瞬発力ね。最初は直したがったので「直す?」って聞いたんだけど、あのときの気持ちの入れ方と同じにはできないかもしれないってことで止めたんですよね。気負いすぎるから。ファーストタッチで気負いなくできたことが、じゃあ録り直そうって言ってそうそうできるもんじゃないんですよ。だから歌唱力のある方に仮歌頼むのはダメですね。仮歌やっちゃったらそれがいちばんになっちゃうからね。縛りなしで歌っちゃうから。実は僕の歌も仮歌なんですよ。

(一同笑)


---みなさん、もうすでにアルバム『THE MOMENT』はお聴きになりましたよね。いかがでしたか? 角松さんの音づくりへのこだわりと、そのキャリアとともに高度に進んだ音楽性が見事に融合。しかもサービス精神にあふれた作品でしたね。しばらくは角松流プログレサウンドに浸りましょう。


角松敏生情報

角松敏生さんインタビュー『THE MOMENT』
THE MOMENT

1. OPENING ACT feat. SHIENA
2. The Moment of 4.6 Billion Years~46億年の刹那~
3. Get Back to the Love
4. THE LIFE 〜いのち〜
5. I SEE THE LIGHT〜輝く未来




インタビュー、文:ヤフオク!
写真提供、協力:BEANS
協力:ソニー・ミュージック(外部リンク)
角松敏生オフィシャルサイト(外部リンク)

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