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ジョー奥田さん Vol.1 〜生録のススメ〜

ジョー奥田さん ネイチャーサウンド・アーティスト、ジョー奥田さん。「ネイチャーサウンド」訳すと「自然音」。ジョーさんは海、山、森などの自然音を録音しCDを制作したり、その自然音を背景に即興音楽を融合させた音楽CDを作っている、国内でも他に類を見ないアーティストです。
ギターラボでレギュラー連載をしているヤッチーこと平松八千代さんのお引き合わせで、知り合うことができたわけですが、そのサウンド哲学に触れることができるインタビュー。その第1回目です!




自然音を収録中のジョー奥田さん



女子大生に生録のおもしろさを教えると……

インタビュー収録はジョー奥田さんの都内のスタジオ兼事務所で行われました。スタジオなので、パソコンを中心した調整卓があり、ネイチャー・サウンドを録りに全国を歩くジョーさんらしく、大きな機材を収納したバックパッキングがあったり、まさに「録音」のプロフェッショナルといったたたずまいのお部屋です。ジョーさんにすすめられて購入した、PCM-D50(ソニー製PCMレコーダー)を収録機材のひとつとして持って行きました。

■ネイチャーサウンドオーケストラ(NSO)の活動、自然音録音の活動、最近は大学での講義まで幅広く活躍するジョーさんですが、大学ではどのような講義をなさっているんですか?

「生録」を実践することをすすめているんです。
昔から「生録」を趣味としてやっている方は、まあ放っておいてもやりますからいいんですが(笑)。二十歳そこそこの人が集う大学で、クラスの生徒さんみんなにこのPCM-D50を持たせているんですが、使い方ガイダンスからはじめて何を録るかとか何度か授業を重ねて、ある週それぞれのヘッドフォンを持ってこさせて生録をやったんです。
ヘッドフォンを音声出力端子に接続して「録音ボタンを押して、録音レベルを上げて……」その間ぼくはずうっとしゃべっているんですね。「インジケータ振れてる?」「もっとレベル上げて」「赤いランプが付いた? そしたらすこしずつレベルを下げて」って感じで。その間彼女たちはずっとヘッドフォンからレコーダーを通じてぼくの声を聴いているわけですよね。で、「もう一度録音ボタンを押して」しばらくして「はい。そしたら録音を止めて再生ボタンを押してごらん」と。そうするともちろん今ヘッドフォンで聴いていた音が、そのまま再生されるわけでしょ。そしたらすごいんですよ。みんなキャーキャー言っちゃって(笑)。それからみんな目の色が変わっちゃって、もう録音のとりこ。

■おー(笑)。

ぼくらが子どものころはカセットテープでしたので、最初に持った機器はカセットテープレコーダー。ラジカセの前身みたいなやつね。それで自分の声を録音して再生したときの驚きったらすごかったじゃないですか。まるで切り取って時間を戻されたようなね。それをこのPCM-D50の性能レベルでやられたらそりゃブッ飛びますよ!
で、「好きなものを録っておいで」とそれを持って帰らせると、ほんとにおもしろいものを録ってくるんですよ。両親と親戚とバス旅行にいったときの車中での会話とか(笑)。近所の田んぼの蛙とか、電車に乗ったらおかしな会話をしているカップルがいたからその会話を、とかね。それをみんなで聴くんですよ。おもしろいねーって言いながらね。

写真:自然音を収録中のジョー奥田さん




女子大生は音を録ることの本質を捉えている

そういう彼女たちの質問は、「何を録ったらおもしろいか」とか「どういうふうに録ったらおもしろいか」という内容に関するものなんですね。
以前、某メーカー主催で、明治神宮で生録体験会を開催したときのことです。数10名集まりましてね。神宮のあちこちで録音して、終わってから近くで懇親会を行ったんです。集まった人はみな男性。年のころは40代後半から50代。その昔、カセットデンスケ(ソニー製の高性能録音機)でSLの音を録っていたような世代の人たちです。その人たちから出てくる質問は、そのすべてがハード(機材)に関するものなんです。
「どんなマイクを使っているんですか? 私のマイクはこれですが、どう思われますか?」「どんなヘッドフォンを使っていますか?」。何をどう録ったらいいのか、という内容に関する質問は皆無なんです。
ハードマニアなんですね。それはそれでいいと思うんですよ。ぼくのなかにもそういう部分はありますから。「これいいなー。うわー、メーター動いている。コレ好きー」とかね(笑)。
そういう意味で言うと、女子大生たちは本当の意味で音を録ることの本質を捉えているんです。彼女たちにとってはこの機械なんてどうでもいいんですよ。もっと小さくてオシャレだったらなおよし、って感じですよね。だけど、それを使って録ることのおもしろさに気づいているんですよ。




愛するものを作品にすることがおもしろい

で、何を録ったらおもしろいか、なんですが……。これね、ある雑誌に同じようなテーマで執筆を頼まれたときに気がついたことなんですが、それは「自分が愛するものを録ること」なんです。それは写真とか、動画、絵、文章。それら「ものを作る」ということすべてに共通していえることなんですね。愛するものを作品にすること。
たとえばぼくなんかは、自然の音が好きだから自然を録る。音楽も好きだから音楽も録る。で、電車が好きな人は電車を録る。自分の愛するものを録る。自分の愛している人の声を録る。両親の、祖父母の、子どもの声を録る、ということなんだなと。モチベーションはいろいろなんだと思うんです。お金にしたい、有名になりたい、人に誉められたいなどなどね。そのなかでもっともわかりやすく、純粋なのは、自分の愛するものを録る、作品にする。すっごくシンプルですが、結局そこに行き着くんだなって思うんです。で、それに自分は今まで気が付かなかったんです、その記事を書くまで。

愛するものっていうと、日本語だとちょっと重たくなっちゃうんですね。愛するもの、つまり、自分が大好きなものを録ることなんですよ。それが一番おもしろいんですよ。

宴会とかね。あれ、録っていると案外おもしろいんですよ。
ぼくが今使っているバイノーラル・マイクを持って初めて日本にきたとき、たまに日本に来たからってことで鍋の会を開いてくれた方がいたんですねよ。10人くらい集まりまして、そのマイクを見せたんです。そしたら「おもしろいねー」って、で「これで宴会を録音してみよう」ということになったんです。
途中から酔っ払っちゃって、録っていることすら、録音を停止することさえ忘れてね。あとから聞き返すとくだらないこと話しているんですね。実にくだらない(笑)。それをね、5年くらいたってからあらためて聴いてみたんです。そうすると、そのときはその場にいたんだけど、もう連絡もとりあうこともなくなった人の声があったりね。録った直後に聴いたときと印象がまるで違うんです。
それがこの先20年くらいたってから聴いたら、ひょっとするとそのなかの誰かはもう東京にはいないかもしれない。もしかするとこの世にいないかもしれない。そうすると録音されたものの価値って、まったく違うものになってしまうんですね。

同じような経験なのですが、ぼくは以前親父とお酒を飲んでいるときに買ったばかりのマイクロカセットレコーダーで録ったことがあるんですよ。録るつもりで録ったんじゃないんです。買ったばかりだったので誤作動させちゃったんでしょうね。
親父と二人と飲んで、くだらない話をしていたんですよ。ケンカしちゃったりね(笑)。その後親父が亡くなって、実家でいろいろ整理していたら、そのときのマイクロカセットが出てきたんです。聴いてみると、くだらない会話をしているんですけど、そのときの空気が実に生々しくよみがえってきたんです。
録音物というのは、録ったときからの経年変化でどんどんその価値が変わっていくんですよ。それは100年後にはどうなんだということになると、今までの記録媒体はアナログなので残らないんですが、現在のデジタルデータというのは保存の仕方しだいでは永遠に残せるんですね。たとえば、それを数100年後に聴いたとします。ひょっとしたら言語形態が変わってしまっているかもしれませんが、それは貴重なものになり得るんですよね。




音は記憶の扉を開く。過不足なくね

自然の音もおんなじなんです。たとえば屋久島に行って録音した自然の音。それが数100年後になると、自然の状況が様変わりしていますから、今の自然破壊のペースを考えるとね。もういなくなってしまった鳥の声が記録されていることになったりするんです。数100年前、屋久島にはこんな鳥がいたんだと。音を録るということには、そういうおもしろさがついてくるんですね。

これもつい最近気が付いたことなんですが、飲んでいるときでも、自然の音を録っているときでも録ったときの情景を思い出すんですが、それが意外と生々しいってことなんです。はっきりと記憶がよみがえります。下手するとその場のにおいまでもね。
たとえば写真を撮ったときに、その場の音も切り取れるかといったらそれはできないですよね。それを考えると、映像は音の記憶の扉を開けることはないんです。だけど、音は映像だったり、いろんな記憶の扉を開けることができるんです。音だけの世界のおもしろさってそこなんです。情報量が適切なんですね。多ければいいということでもないんです。


---情報量が適切な音の世界。まさに言いえて妙ですね。実は、私もジョーさんに触発されて生録に挑戦しています。今ならまだ、秋の終わりの虫の声に間に合いますよ。

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NSO ネイチャーサウンドオーケストラ ジャケット 自然音と音楽が織りなす究極のハーモニー 『NSO』
ピアノ:高橋全、サックス:藤井尚之、ネイチャーサウンド:ジョー奥田

【収録曲】
1.Voyage
2.Yukidoke
3.Gentle Afternoon
4.If I ...
5.In Your Arms
6.Momiji
7.Memory Of Her
8.True Dark(nature sound)
9.Eclipse
10.On The Way Home
11.Our Song
12.Where I Came From(nature sound)
13.End of Voyage



ネイチャーサウンドオーケストラオフィシャルサイト(外部リンク)



●文:Yahoo!オークション
●写真提供、協力:ジョー奥田



読者コメント(1件のコメントがあります)

日常を切り取ってあらためて提示し直す。
ポップアートみたいな感覚で。
この不思議体験。しかも高音質!
ボクもこの面白さにはまってます。

投稿者:ポップンポール | 投稿日:2008年10月17日 08:07

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